森林管理・経営の理論・技術

Sustainable managed forests 白糸植物園による持続的な経営林づくり

(株)白糸植物園
Φ森林環境研究所

  1. 施業理論
  2. 施業技術

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持続的な経営林の位置付け

01

地球レベル

森林の持続的開発

地球環境サミット、森林の原則声明(1992)

02

国・県レベル

 持続的森林経営

モントリオール・プロセス(1993)、森林・林業基本法

03

個別の経営林レベル

持続的経営林(Watanabe 1993)


持続的な経営林とは…
広範囲を対象とした森林の取扱の基準を個人・団体が経営する林で満たすための要件が1993年に京都議定書に関連した基調講演で渡邊博士により提唱されました。持続的な経営林とは、この要件を満たす林のことです。

持続的経営林の5要件

 (Watanabe 1993、渡邊1995)

  • 1.高蓄積
  • 2.高成長
  • 3.高収益
  • 4.多目的利用
  • 5.生物多様性

要件間は矛盾するため、5要件のバランスを見極め両立させる

持続的な経営林の5要件の詳細

高蓄積

  • 高蓄積な林はCO₂を木材としてストック
  • 森林の構造上の多様性を維持
  • 現時の森林の資源価値を最大化

高成長

  • 成長量の高い森林はCO₂固定し地球温暖化抑制
  • 循環資源としての森林の特徴を最大限に発揮
  • 用材や薪など木材の社会的需要を満たす

高収益

  • 収益が確保できなければ人々の税金によって森林の造成や維持管理費用を負担
  • 地域に安定した就労機会をもたらし次世代の森林・林業の担い手を育成
  • 地域経済の発展と生活水準の向上

多目的利用

(林産物や公益的機能を含む)

  • 木材のほか狩猟、釣り、山菜、果実・薬を採集
  • 森林からの食糧の採集
  • 水源涵養、土壌侵食防止、洪水緩和など森林の公益的機能を維持、レクリエーション教育などの機会の創造

生物多様性

  • かけがえのない地球生態系における遺伝子資源の保全
  • 生物の存続にとって必須の要件

引用文献

Watanabe, S.(1993)Sustainable managed forest base on selection cutting and natural regeneration technical approach. Presentation at the ITTO Senior Forester conference follow up seminar on sustainable forestry in Japan.

渡邊定元(1995)持続的経営林の要件とその技術展開. 林業経済 48(3): 18-32.

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(株)白糸植物園は、防災水源涵養路網と列状・中層間伐により5要件を満たす非皆伐・長伐期の持続的な経営林を実践する

スギ・ヒノキ人工林での間伐モデル

令和4年 農林水産祭天皇杯・農林水産大臣賞受賞

森林整備の目標林型

100年生…優良木 200本/ha
150年生…優良木 100本/ha ※樹種 スギ・ヒノキ
1本10万円 1000万円/haの森づくり

森林整備方法

  • 高密度防災水源涵養路網(140-240m/ha)を作設。
  • 過密林分では、初回のみ3残1伐の列状間伐。
  • 以降、7~10年間隔の中層間伐(20%)を繰り返す。
  • 間伐ごとに10万円/haの間伐収益保証。

3残1伐列状間伐と高密度路網作設をした過密林分の空中写真

非皆伐の育林技術体系

15-25年生 ねじれ木、曲がり木など保育間伐
25-50年生 路網整備と列状間伐 間伐遅れ林対策を兼ねる
30-40年生 中層間伐による同齢複層林へ誘導
40-65年生 100年生以上に育てる将来木候補の選定
65年生以上 モザイク施業による複相林へ誘導

列状間伐による間伐遅れ林の健全化

1.現状の明確化

①照度不足,②個体の葉量不足,③土壌流亡,④無植被の林床,⑤多い欠点木,⑥低い経済的価値

2.対策:路網を前提とした間伐体系の確立

①大型機械に適した間伐法
②非経済林の間伐
一つの解として:防災水源かん養路網を前提とした列状間伐

3.列状間伐の有効性(渡邊 2005)

・劣勢木に活力を与え諸害に強い健全木に
・D/H比,D²H頻度分布の歪度,着葉量による林の管理
・収益性の向上

中層間伐(渡邊1970)

・将来木の候補の成長を妨げる木を間伐
・小径木は価値が出る太さになるまで放置
⇒間伐の経済性を高めながら優良木を育成
標準的なスギ・ヒノキ人工林では本数伐採率20%

将来木候補とは
  1. 通直で無欠点木であること
  2. 継続的に肥大成長が見込まれる着葉量が多い個体
  3. 病虫獣害を受けていない個体
  4. 樹高成長に応じ13mまでの枝打ちを行える個体
中層間伐の実際 渡邊(2005)の方法を簡略化
  1. まとまった10本から将来木候補を1本選ぶ
  2. 将来木候補の成長を妨げる木1本とその伐倒支障木1本を間伐する
     ※本数伐採率20%以下を厳守する

将来の見通し

  1. 中層間伐の度に将来木候補を吟味し、100年生になるまで200本/haの将来木を決定。
  2. 間伐木選定の基礎面積は20%ずつ拡大し、初回に選定した将来木候補の一部は100年生までに間伐の対象。
  3. 高齢級になればなるほど林分収益性は高まる。

森林作業道づくり

防災水源涵養路網(渡邊1998)

平成22年国土交通大臣表彰

作設の基本理念
  1. 作設費用:道路支障木の売上と公的助成の範囲内
  2. 路体構造:三つの安全 山・働く人・作業する車
  3. 森林内の環境保全:道路からの集材
路網の構造
1.L字側溝と片勾配路体

目的:山地からの雨水,流水を路体 に流さない

2.緩い縦断勾配(6%以下、理想3%)

目的:側溝に集まる水による縦侵食を防止する。

3.浸透桝の設置 

目的:降水を地下部誘導し防災と水源涵養機能を高める

4.排水管の付設

目的:L字側溝・浸透升から余剰水を排水
森林の透水能力の許容量以上の降水対策

時間雨量70mm時の防災水源涵養路と浸透桝

5.空ため池(ダム)の設置

目的:集中豪雨に伴う洪水防止と流水の貯水と地下浸透化

常識と異なる路体構造
  • なぜ片勾配か
    雨水を側溝で浸透・路面のぬかるみを無くし,早く乾き就労可能
  • なぜ路体と山体の水の分離か
    上方からの雨水を側溝,浸透桝で地下水化
  • なぜ6%未満か
    縦浸食の防止,メンテナンス費の削減,安全な管理
  • なぜL側溝か
    作設費・管理費の削減
  • なぜ伐開幅6mか
    機械作業の効率化,高齢級のヒノキ枝張りは4m

スギ・ヒノキ人工林における天然更新技術

発芽床づくり

  • 林冠の閉鎖→無植被の林床
    ①人工林では15-40年
    ②ブナ科植物など動物散布種の貯食床づくり
  • 3残1伐の列状間伐→林床にコケ植物が繁茂
    ①列状間伐4年後コケ型林床が形成、発芽床づくり
    ②更新樹の発芽

更新床づくり

  • 中層間伐等による更新床づくり
    ①稚樹の成長に必要な光環境づくり
    ②稚樹バンクの下刈り・不要な雑木の除伐

若木バンクづくり

  • 中層間伐等の繰り返しによる若木バンクづくり
    ①中層間伐を7-10年ごとに繰り返し若木バンクの育成
    ②若木バンクの除伐・枝打ち

列状間伐2年後
林床コケが生えスギ・ヒノキの更新床となる。カケスの貯食場所ともなる

列状間伐7年後稚樹発生状況
樹冠が閉鎖すれば数年で枯死

伐根周囲にヒノキ稚樹発生
無植被→列状間伐:コケ型・稚樹発生→中層間伐:稚樹成長・生残

若木バンクへ誘導
稚樹バンク林床での2回の間伐

引用文献

渡邊定元(2005)新しい間伐法の紹介: 列状間伐と中層間伐. 森林科学 44: 18-2
渡邊定元(1970)これからの林業経営に資する新間伐法. 林業技術 341: 21-24.
渡邊定元(1998)防災水源かん養路網の提唱.山林 1367: 2-10.

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